スヤァ

ケンスケ

 …………

ケンスケ


 いや、この子、誰?
 

 僕の見間違いじゃなければ、今この子は水晶から飛び出してきた。

 ……いや、ついに幻覚が見え始めただけか……?
 

 僕は気を失った少女に近づき、その頬っぺたをつついてみる。

 …………

 もにぃ、という柔らかな感触。

ケンスケ

 なんだこれお前、これ~!
 いやっべ~……これ……ほっぺに指埋まっとるぅ~!

ケンスケ

 ……ッハ。
 こんなことをしている場合じゃあない

 感触がある、ということは、幻覚ではないのだろう。

 しかし……気になるのは、彼女の容姿である。

 白髪。

 またもや、『白い女』である。

ケンスケ

 ……とりあえず、起こしてみるか……?

 否、それは辞めておいた方が良いだろう。

美香

 この国は女の子に声をかけるだけで犯罪者になっちゃうからねー。
 ケン君なら即逮捕実刑判決間違いなしだよ!

ケンスケ

 ……と美香に教えてもらったことがある。


 ……まぁ、蹴っ飛ばしたり頬っぺたをつついた後じゃあ、もう色々遅い気はするが……。

 それは兎も角、幸いこの家には僕の姉ちゃんが居る。

 とりあえず姉ちゃんに任せるのが吉であろう。

 帰りのあいさつに返事は無かったものの、この先のリビングに姉ちゃんは居るはずだ

ケンスケ

 ただいまー

 二度目のあいさつをしながら、僕はリビングの扉を開ける。

 部屋の右奥。

 大きな五つのモニターに向かうその人物は、またもや僕の言葉を無視した。

ケンスケ

 むむむ……

ケンスケ

 可愛い弟が帰って来たよ~

 僕はそう言いながらその人物が座る椅子を掴みぐらぐらと揺らす。

 すると彼女はゆっくりとこちらを振り返り、少しむくれて口を開けた。

炬

 ……私が買ってあげた自転車を、たった二日で粗大ゴミにしてしまう弟なんて知りません

ケンスケ

 だからごめんって。
 それは一週間分の家事で帳消しだろ?

 それに加えて三時間の拷問もあったが、それは言わないでおいた

炬

 そんなんじゃあ私の心は癒えないのです

 香田 炬(こうだ かがり)。
 僕の姉ちゃんだ。

 姉ちゃんはサラサラの髪の毛を振り回し、それを彩る石の髪飾りで椅子を掴む僕の手を攻撃してきた。

 地味に痛い。

 ふと、姉ちゃんのモニターに目を向けると、何かのグラフやら数字がぎっしりと描かれているのが見えた。

ケンスケ

 姉ちゃん、また株取引か?

炬

 そうですよ。今日は二百万くらい稼ぎました

ケンスケ

 うぅむ、相変わらずすごい

 驚くべきことに、香田家の家計は姉ちゃんの稼ぎで支えられている。

 謎の格闘術を極めたり、金融取引で荒稼ぎが出来たり、姉ちゃんはあらゆる分野でその才覚を発揮する。

ケンスケ

『無情の断罪(ゲームマスター)』

ケンスケ

 姉ちゃんの才能を、僕はそんな風に称している。

ケンスケ

 ……ていうか、一日でそれだけ稼げるんなら、また自転車買ってくれよ

炬

 いやです。お金で自転車は買えても、私の心は買えないのです

ケンスケ

 なんだかそう言われると罪悪感が溢れてくるなぁ……

 まぁ、事故にあった僕が悪いのは分かっているが。

 ……と、そうだ、すっかり聞くのを忘れていた。

ケンスケ

 姉ちゃん、ちょっと玄関まで来て欲しいんだけど

炬

 はい? 何でですか?

ケンスケ

 えぇと……説明しづらいから、ちょっと来てくれ

 僕は椅子から姉ちゃんを引っぺがして廊下に出る。

 水晶の隣には、先ほどと変わることなく、白髪の少女が寝息を立てていた。

 スヤァ


 うん、やはり幻覚ではない。

ケンスケ

 なんか、水晶を蹴っ飛ばしたら女の子が出てきたんだけど……

炬

 あら、縫姫(ぬいひめ)ちゃんじゃないですか

 姉ちゃんは驚いた様子も、僕の台詞に疑問を持つこともなく、当然のようにそう言った。

 水晶から出てきた、とかは兎も角、彼女……晶子ちゃんとやらは、姉ちゃんの知っている人物のようだ。

ケンスケ

 なんだよ、姉ちゃんの知り合いか?

炬

 知り合いっていうか、妹ですよ

ケンスケ

 ふぅん、妹ね。誰の?

炬

 え? 私たちのですよ?

ケンスケ

 ……えっと、ごめん。ちょっと待ってくれ

炬

 私とケンは二人の姉弟。
 妹なんて聞いてない! って顔してますね

ケンスケ

 いやまぁ、当たってるけど……

炬

 ケンには今まで黙ってましたけど、実は私とケンには義理の妹が居たのです

ケンスケ


 ほげえーーー!?