コワーキングスペース
『CHERRY』運営奮闘記

第二話

オープンして一ヶ月ほど経ったある日の、コワーキングスペース『CHERRY』。
今日は二人の利用者が、なにやら本を見ながら相談中です。

大崎

この棚、いいなー。嫁さんこういうの好きなんだよね。俺、これ作りたいな。

柳

いいんじゃないですか。すぐできると思いますよ。

大崎

でも道具持ってないんだよね……

柳

材料カットまではホームセンターでやってくれますよ。工具の貸し出ししてくれる所もあります。

大崎

そうなの!?

DIY好きの柳さんと、フリーランスのエンジニアの大崎さんが『はじめてでも作れるアンティーク風木工家具」という本を手に、楽しそうに話しています。
どうやら、木工を教えてもらっているようです。

大崎

ハマったらメッセージ投げるから教えてね。

ちひろ

ふふ。楽しそう。

鮎美

こんにちはーっす!
ねぇねぇ、この「イタリアンバジル焼きそば」食べた?そこのコンビニで初めて見て買ってきちゃった。

ちひろ

鮎美さん…今日もお昼カップ麺なの。

鮎美

カップ麺じゃないよー焼きそばだよー♪
コンビニの新製品は出ると試したくなるんだよね。お湯もらいまーす。

柳

鮎美さーん、お湯ちゃんと足しておいてください。この間、鮎美さんがラーメン食べた後、僕、コーヒー飲めなかったんだから。

大崎

おいおい運営者、なにやってんの。

ちひろ

知らなかった。鮎美さんがこんなにコンビニごはんばっかりだなんて。

柳

コワーキングスペースって、素が出ますよね。

大崎

うん。
鮎美ちゃん、家で料理とかあんまりしないほうでしょ?

鮎美

失礼な。カレーは作るよ。

ちひろ

カレー…?

鮎美

いっぺん作ると楽だよね、一週間それで済むから。

大崎

…い、一週間……

鮎美

なに?

ちひろ

飽きないの?

柳

毎日なにか変化があるといいんですよ。具を足すとか。スパイス加えるとか。

大崎

おお柳くん、棚だけじゃなく料理も作るのか。料理男子!

柳

自分が食べたいから作るだけですよ。
どうしても市販のルーだけじゃ味が平坦になってしまうので。
昔、カフェでアルバイトして作ってから、自分でも研究するようになって、ハマってしまって。

ちひろ

すごい!どんなスパイス使ってるの?

柳

クミンシードは好きで必ず入れます。ココナツミルク使うときはカルダモンも要りますね。チキンとパプリカメインで作ってもおいしいですね。あとは……

鮎美

……高度だ…ついていけない…

といっても、こんなに賑やかなのは、まれです。
『CHERRY』は、ほんの数人がたまに顔を出す場所になっていました。

閉店時間です。二人は片付けをしています。といっても、利用者が少ないのでやることもあまりないのですが……

ちひろ

今日も、柳さんと大崎さんだけだったね。

鮎美

……あっ!なにか足りないと思っていた!

ちひろ

何?

鮎美

イベントやろうよ!イベント!

ちひろ

イベント?コワーキングスペースって、どんなイベントするの?

鮎美

いろいろあるよ!
コワーキングスペースってよく知られていないし、いきなり一人で行くのはちょっと敷居が高かったりするから、人が集まるイベントをして、それでどんな場所か知ってもらうっていうのが効果的なんだよ。

コワーキングスペースのイベント

ではここで、コワーキングスペースで行われるイベントの例を紹介しましょう。

まず、
・起業
・経理
・クラウドファンディングについて
などの、ビジネスに関連するセミナー。

多いのはIT系のイベント。
・開発言語の勉強会(Swift、Ruby on Rails、etc)
・CMS、ウェブ制作の勉強会(WordPress、a-blog、Jimdo)
・子ども向けのプログラミング道場、CoderDojo
・ソフトウェアやガジェットの体験

生活・趣味では
・アロマ作り
・手芸、工作
・お菓子作り

そして、誰でも気軽に参加できるようなイベント。
・たこ焼きパーティー
・ビアバッシュ
・異業種交流会
・おでんの会
・ビブリオバトル

行われるイベントを見ると、そのコワーキングスペースがどんなカラーなのか、なんとなくわかります。
たいていのコワーキングスペースでは、ブログやFacebookでイベントの様子を掲載していますので、チェックしてみてくださいね。

鮎美はイベント開催について東京のコワーキングスペース『Apollo』のオーナー、今井さんにメッセージで相談してみることにしました。

鮎美

……今井さん、というわけで、なにかイベントやろうと思うんですけど。

今井

そうですね。まず『CHERRY』には、どんな人が集まって、どんなコミュニティができているのかな。

鮎美

う…コミュニティ、と言えるのかな。そもそもまだあんまり人が来ないんです……
多少IT系の人が多いような気はしますけど、IT系ばかり集まるのもちょっと違う気がします。ちひろさんは近所の主婦の人たちにも使って欲しい、と。

今井

そうですか。では、誰でも参加できるような交流会が、いいと思うよ。
カレーの会や、持ち寄り宴会。
カレーは飲めない人も楽しめるからいいね。
コワーキングスペースで定期的にカレーの会やっているところは、けっこうあるよ。

鮎美

カレー!いいですね。
うちは元居酒屋だから厨房も食器も一応あります!

今井

料理ができるスペースなら、それは売りになるね。
かといって、食べるイベントばかりやってもしょうがない。
さっき、コミュニティがまだないって言ったけど、これから『CHERRY』をどういう場所にしたいのか、どんな場所にしたいのか、鮎美さんとちひろさんがしっかり考えて、いろんなことをやっていくと、いいと思うよ。

鮎美

はい。ありがとうございます。

今井

イベントはどういう手段で告知しようと考えているの?

鮎美

そうですね、Facebookイベントと、公式サイトと、twitterと。あとは店先にチラシ置くところがあるのでそこに簡単な案内を作って置こうと思います。

今井

A市限定のイベント告知サイトもいろいろあるから、活用してみるといいよ。 地方はSNSを使っていない人もまだ多いからね。

DoorKeeperやpeatixなどのイベント運営管理に特化したサービスもある。参加費をあらかじめ徴収しておくのに便利だよ。

鮎美

えっ、カレーの会で、そこまでしなくても…

今井

まあ今回は普通に現金で参加費を集めるとして、今後の参考のために見ておくといいですよ。
やってみるとわかるけど、イベントの時にお金をやりとりするのって、けっこう手間だからね。

鮎美

はい。

数日後。

鮎美

……

鮎美

と、いうわけで、柳さん。

柳

はい。

鮎美

カレーの会しましょう!

柳

いいですね。

鮎美

作ってください。

柳

はっ?僕が?
鮎美さん作れるんでしょ?

鮎美

手伝います。

柳

ちひろさんは?

ちひろ

うふふ。柳さん、この間言ってたじゃない。カフェでアルバイトしてて、カレーの仕込みしていたって。私は普通のカレーしか作れないもん。

柳

ああーもう、余計なこと言っちゃったかな……

こうして、『CHERRY』はじめてのイベントはカレーの会となったのでした。

鮎美はイベント告知、拡散をネット上で。ちひろはチラシを作りました。

鮎美

ちひろさん、このチラシすごくいいよ!
見やすくて惹き付けられる。イラストもかわいいし。
すごい!私が持ってないものを持ってるよね。
こういうの絶対作れないんだ。

ちひろ

そんなことないよー!
仕事でよく作ってたから慣れてるだけよ。

『CHERRY』初のイベント、カレーの会の日がやってきました。
初めてのイベントなのに、10人近くの人が集まりました。Facebookで見た人、イベント告知サイトで見た人、チラシを見た近所の人。
参加者が集まり、大きなテーブルにみんな輪になって座りました。全員軽く自己紹介のあと、カレータイムです。

鮎美

いただきます!

清川

柳くん、おいしいよ!

上手ねぇ。

柳

僕にしては、普通に作りましたよ。普段は激辛にしちゃうんです。

鮎美

なんかざらざらする。

柳

……スパイスです……

ちひろ

鮎美さんも手伝ったのよね。見ててハラハラしたけど。

清川

ニンジンに、形が揃ってるのといびつなのと二種類あると思ったら、そういうことか。

鮎美

ひ、ひどい!

あっはっはっは!

同じテーブルには、ちひろと、ちひろに抱っこされた息子の恭太もいます。

ちひろ

恭太、もう食べちゃったの?おかわりする?

いっぱい食べてえらいねぇ。

清川

うちの孫はまだ1歳なんだ。

ちひろ

あら!お孫さんいらっしゃるんですか。若く見えるから……

清川

うふふ(笑)そう?いや〜嬉しいなぁ。

今日、ワインも持ってくればよかったなぁ。

カレーには、黒ビールも合いますよね。

いいですね!ソーセージなんか添えたりしてね!

こんどは、おかずを差し入れしますね。

早くも次回開催、決定ですか。

柳

次は鮎美さんが作ってください。

清川

次も柳くんがいいなぁ…

鮎美

だって!

柳

………

鮎美

ん?

あら、今誰か、のぞいて行ったみたいよ。

鮎美

なんだろ。飛び入り参加したっていいのに。

清川

もしかして…

ちひろ

どうしたんですか?清川さん。

清川

……ん…、違うかな。

賑やかな時間はあっという間に過ぎました。大量のカレーもあっという間にカラになり、無事カレーの会は終わりました。
次回の開催もなんとなく決定。

鮎美、ちひろ、柳さんの3人で後片付けをしました。
ひと通り片付いた後で、3人でコーヒーでいっぷくしています。

ちひろ

お疲れ様。

柳

初のイベント、無事終わってよかったですね。疲れたけど楽しかった。

鮎美

あのね。イベントのことを相談したとき、『CHERRY』をどういうスペースにしたいか、考えたほうがいいよって、『Apollo』のオーナーに言われたんだけど。

柳

鮎美さんはどうしたいんですか?

鮎美

うん、あまり「こういうのが」って決めちゃうつもりはないんだよね。
でも…例えば、私とちひろさんみたいな正反対のキャラが出会って、思いがけず、ここをオープンできたように。誰かと誰かが出会って、やりたいことや夢を叶える、きっかけが作れる、そんな場所になれたらいいなとおもう。

柳

ちひろさんは?

ちひろ

私はね…ここが居場所だな、と思ってほっとするの。いままで、育児と家事しかなくて。
『CHERRY』面白い人たちに会えたり新しいことに挑戦したりするのが、とっても楽しいの。
だから、そんなふうに誰かの居場所に、ここがなれたらいいな、って。

柳

いいんじゃないですか、それで。

鮎美

本当はずっと、不安でいっぱいなんだけどね……

何日か経った、ある日。

清川

こんにちは!先日のカレーの会、楽しかったよ。

鮎美

こちらこそ。来てくださってありがとうございました!

清川

実は、勉強会にここを使わせてもらいたいんだけど、いいかなぁ。

鮎美

わ!ありがとうございます。

清川

終わった後の懇親会も、ここでしたいんだ。ビールとピザで軽く。

鮎美

もちろん!

………

鮎美

こんにちは!

どうぞー。

小松

………

鮎美

………(あれ?この間のぞいてた)

清川

あ!やっぱり。小松君……だよね?

小松

……あ、はい。

鮎美

お?お知り合いですか?

清川

懐かしいね。
もう10年くらい前かなぁ。
まぁ…ほとんど知られていないマイナーな携帯端末のファンの集いがあってね。毎月集まってなんだかんだやってたんだよ。

鮎美

ははっ、清川さん、そういうマニアックなの好きそう。

清川

そこに、小松君は……まだ高校生だったよね?来てくれたんだよ。
若いのにすごく知識が豊富でね、みんなびっくりした。僕もよく教えてもらったよ。

小松

…ええと…きよ…

清川

清川だよ。そうか!僕もだいぶ変わっちゃったからね。昔は七三分けで黒縁メガネ。

鮎美

うわっ想像できない。

清川

小松君、今は、大学生?いや、もう卒業してるか。働いているんだよねぇ?

小松

……え…と、ちょっと……

鮎美

まーまー座って。

小松

…はい…

鮎美

小松さん、これがここのパンフレット。差し上げますね。『CHERRY』のことは何で知ったんですか?

小松

…あ、え、ウェブで検索して。電源カフェとか探してて。自習室みたいな。

鮎美

そっか。うちはまだできたばっかりで、あまり人は来ないから、午前中とか、けっこう静かですよ。

清川

そうそう、今度ね。あの時のメンバーも来るんだけど、ここで勉強会やるんだよ。ペアプロしながら簡単なスマートフォンアプリを作っていくハンズオン形式なんだ。小松君もどう?今も開発してる?

小松

あ、あの、今日は見学に来ただけ、なんで、これで……

鮎美

あ、そう?

清川

ああっ小松君。これ僕の名刺。連絡くれる?勉強会のURL教えるから。

小松

……ありがとうございます。失礼します……

鮎美

なんだか、おとなしいひと。

清川

うーん……

ちひろ

ただいま!

鮎美

お帰り。すごい荷物だね。

ちひろ

布ってけっこうかさばるのよね。でも、綺麗でしょ?
これで、ハンドメイドのワークショップしようと思って。

イベントもどんどん開催されるようになって、『CHERRY』も賑やかになっていくのでしょうか?

<< 続く >>

第二話 イベントをやろう!

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