-YES/NO-






圭

こんな感じでいいかなぁ?

二ノ宮さんへのラブレター。

書き上げた便箋を丁寧に折り畳むと、白い封筒に入れ込んだ。

スマホ全盛のこの時代に、ラブレターっていうのも何だかなぁ、とも思う。



でも、だからこそ!



だからこそ、手紙の方がきっと気持ちが伝わるハズだ。


















ラブレターの書き方のサイトに「ダラダラ書かずに核心だけを書くこと」とあった。



文面はやや素っ気なくはあるが、伝えたいことだけは伝わると思う。



すなわち、僕が二ノ宮さんを好きであるということが……。









本当は二ノ宮さんの良いところ……たとえば、笑ったときに出来る「えくぼ」の可愛さも伝えたい。

結衣子

うふふっ!








他にも、マラソン大会3位の結果を廊下に張り出されているのを見て、ガッツポーズで喜んでいた仕草とか……。

結衣子

よっしゃー!








彼女の周りはいつも日だまりの中みたいに、穏やかで暖かな雰囲気に包まれているところとか……。

結衣子

お昼寝日和☆ ふあー!








偶然、電車の中で見かけたとき、彼女がお年寄りに席を譲っていた優しいところとか……。

結衣子

どうぞどうぞ!








物理が苦手らしくて、問題を解くときの怒ったような真剣な表情に、僕はメロメロだとか……。

結衣子

んー……あー……なるほど?








などなどを書き連ねたい! ……のだけれど。

ストーカーとは思われたくないので、短めの文にした。

ちなみに、要約すると「君が好きです」「付き合ってくれるなら午後9時に電話をください」という文面だ。



……しかし、問題が1つ。



それは二ノ宮さんとはほとんど話したことがなくて、僕の一方的な片想いであるということ。

話しかけようと思えば思うほど、緊張してしまって何も言えず、話せるチャンスも逃してきた。

これではダメだと思い、せめて気持ちだけでも知ってもらいたいたくて、手紙を書いたのだった。



……たぶん、結果は「NO」だろう。



それでも、もしかしたら何かのきっかけになるかもしれないし、もしかしたら……もしかするかもしれないし……。



玉砕覚悟で明日、この手紙を渡そうと思う。

圭

よしっ!

そして、運命の日――。










圭

二ノ宮さん!

結衣子

はい?

昼休み、廊下を歩いていた二ノ宮さんに声を掛けた。

振り向くと同時に、手紙を押しつける。

圭

あの……手紙です

結衣子

へ? 手紙? 誰から?

圭

ぼ、僕からです










圭

うわー、なんて間抜けなトークなんだ……










とりあえずは受け取ってくれたものの、明らかに戸惑っている。

困ったような視線が、僕を非難する。

結衣子

……

圭

と、とにかく読んで下さい!

居たたまれなくなって、きびすを返して走り出していた。

圭

何とか渡したぞ!

混乱する頭で廊下を走り抜けて、階段を下り、校舎裏まで来てしまったものの、予鈴が鳴った。



午後の授業はあと2時限あるし、教室に戻らなければならない。



しかし、よく考えてみれば、二ノ宮さんとは同じクラスなのだ。

圭

き、気まずい……

自分の計画性のなさに気が付くと同時に、早退しようとも考えたがそれではあまりにダメすぎる。



恐る恐る教室に戻ると、ほとんどの人は席に着いていた。



そしてこんなとき、見ないでおこうと思っているのに、二ノ宮さんを見てしまう。

結衣子

……

圭

ぐわ……

案の定、目が合ってしまい、目を逸らされてしまった。



席につくと、ドッと気持ちが沈み込む。

土屋

圭

え?

そこ、俺の席なんだけど……

圭

わ! ごめん!

間違って1つ前の席に座っていた。

くすくす……

笑いが起こる中、今度こそ自分の席に座り、突っ伏した。



さすがにもう二ノ宮さんの方を見ることが出来なかった……。









――午後8時55分。



携帯電話を強く握りしめていた。



果たして、電話は掛かってくるだろうか?



心臓の音が全身に響いている。















――午後8時59分。



携帯電話を前にして、正座していた。



果たして、電話は掛かってくるだろうか?



頭がクラクラして、胃が痛い。















――午後9時5分。



携帯電話の傍らで、土下座していた。



もしかしたら、遅れているのかもしれない。



二ノ宮さんの家の時計が10分ほど……。















――午後9時30分。



ベットで仰向けになって、倒れていた。



なぜだか……天井が滲んで見えた。















午後9時31分。

携帯電話の着信音が部屋に響き渡る。

圭

え……?

慌てて起き上がり手に取ると、見知らぬ電話番号。



これは……二ノ宮さん、なのだろうか?



震える手で僕は電話に……出た。

圭

も、もしもし! 土屋です!

結衣子

あの……二ノ宮です

圭

に、二ノ宮さん!?


これは、電話が来たということは……うわぁ!

圭

手紙、読んでくれたんだよね?

結衣子

うん、読んだけど

圭

電話掛けてきてくれたっていうことは、つまり……

圭

「YES」って……ことですね?

結衣子

ううん、「NO」です

圭

ええっ!?

電話越しに、二ノ宮さんの屈託ない微笑みが見えた気がした。

すっかり舞い上がっている僕は落ち込むより早く、二ノ宮さんが電話を掛けてきた理由を聞く。

圭

だだだったら、なんで電話を……?

結衣子

あのね、土屋君

男らしいとか、女らしいとか、引き合いに出すのは違うかもしれないけど、それでもあなたは男らしくないと思う。



返事が良くても悪くても、ちゃんと結果を聞くのが礼儀ってもんじゃない?



それを「YESだったら電話して、NOだったら放っておいて」だなんて、こっちの身にもなってよね。



土屋君は必死で平静を装ってたみたいだけど、手紙をもらう前から私はなんとなく気付いてたんだからね。



なのに傷つくのが怖いからって、それを都合良く相手に委ねるのって、すごく「失礼」なことだし、ズルいよ。



本当にあなたが私のことを、その……好き、なのかどうかまで疑わしくなっちゃうよ?



それに……。









圭

好きだよ!

結衣子

……

圭

僕は二ノ宮さんが好きなんだ!

圭

本当に……それは嘘じゃないんだ!

思わず受話器越しに叫んでいた。

しばらく間があってから、小さな声。

結衣子

ありがと

結衣子

……でも、ごめんなさい

圭

どうしても、ダメ?

結衣子

え? だって私、土屋君とはほとんど話したことないし……

結衣子

どんな人かも全然分からないから……

圭

そ、そうだよね~やっぱり……あはは

結衣子

それに土屋君だって私のこと、全然知らないでしょ?

結衣子

普段、何を考えてるか……とか

圭

そんなこと……

そんなことはない……こともない。

外見や行動はともかく、二ノ宮さんが何を考え、思っているのかまでは、さすがに……。

結衣子

最近、私が欲しくて欲しくてたまらない物、分かる?

圭

……分からないよ

結衣子

ほらね

圭

だって、それは、僕が二ノ宮さんとほとんど話したことがないから……

結衣子

ほら

圭

……

結衣子

そういうこと

結衣子

だから、今の段階で付き合ってくれって言われても無理なの

圭

じゃあ、もっと知り合えば、将来的に付き合う可能性もあるってことだよね?

結衣子

さぁ、どうかな?

結衣子

それにしても、土屋君て思ったよりしぶといのね

圭

そ、そりゃ……

簡単に諦めるほど、君への想いは小さくない……と言おうとしたが、さすがに恥ずかしすぎて言えなかった。

結衣子

明日の予習もしないといけないし、そろそろ切るね

圭

あ、ちょっと待って!

結衣子

なに?

圭

『欲しくてたまらない物』って、何なの?

結衣子

秘密です

圭

えー、そんなぁ!?

結衣子

じゃ、おやすみなさい

圭

おやすみ……

圭

あ! 今日はありがとう!

結衣子

いえいえ

結衣子

あなたのご期待に添えなくて、ごめんね?

圭

いや……二ノ宮さんと話せただけでも嬉しいよ

結衣子

……

圭

じゃ、またね

結衣子

……うん

電話を切ると、なんだかすごく落ち着いた気分だった。

結果はダメだったけど……ほんの少しでも二ノ宮さんと話せて良かったと思う。

圭

明日からは気合い入れて話しかけるぞ!

恋人同士になれるかどうかは別として、もっと二ノ宮さんを知りたい。

彼女が何を感じ、考えているのかはもちろん、「欲しくてたまらないもの」とは何なのかも……。



そして、次の日の昼休み――。



















圭

え? これって……?

結衣子

ん? 土屋君から貰った手紙だけど?

圭

いや、見れば分かるよ!

休み時間、二ノ宮さんに声を掛けられ、ドキドキしながら廊下に出た。

すると、得意げに目の前で二ノ宮さんが手紙をちらつかせたのだ。

結衣子

私、学食でAランチとミニパフェが食べたいなぁ!

圭

??? それはどういう……

結衣子

……

圭

あっ!

そのとき、二ノ宮さんの手からポトリと手紙が落ちた。

いや、落ちたのではなく、落とした……ように見えたのは気のせいか?

通りかかった見知らぬ生徒がそれを拾い上げる。

?

圭

うわわ、すいません、返して下さい!

結衣子

ありがとう……ごめんね

僕が手を伸ばすより早く、手紙を受け取る二ノ宮さん。

訝しげな顔をして立ち去る男子生徒。

その後ろ姿に、小さく手を振る二ノ宮さん。

圭

あのー、二ノ宮さん?

結衣子

直訳すると……

結衣子

『この手紙を誰にも見せられたくなかったら奢ってね☆』っていうことよ

圭

……(パクパク)

二の句が告げられなかった……。

結衣子

ちなみに今ならもれなく、私と一緒のランチタイムが過ごせるんだけどなー

圭

奢らせて頂きます!

結衣子

わーい、土屋君って男前だぁ♪

無邪気にはしゃぐ二ノ宮さんと一緒に昼食を摂れるなら、安い物だと自分に言い聞かせる。



そのときの僕はまだ、二ノ宮さんが天使などでは全くなく、悪魔の化身だということに気付いていなかった。



ちなみに二ノ宮さんが欲しくてたまらなかったもの……それは「自分の言うことを何でも聞いてくれる彼氏」だったりする。



僕が二ノ宮さんにベタ惚れで、何でも言うことを聞くことが分かるや否や、半ば強制的に付き合うことになった。



天使のような悪魔の笑顔はそれでも、時折……本当に時折、優しさや、弱さや、涙を見せる。



2人で時間を重ねるたび、彼女はわがままに振る舞うことで愛情確認していることにも気付かされた。



それに気付いたとき、彼女は天使でも悪魔でもなく、僕と同じただの人間であることを知る……のは、しばらくあとの話。

結衣子

土屋君、一緒に帰ろ!

圭

え? 一緒に?

圭

嬉しいなぁ!

結衣子

駅前に美味しいアイスクリームのお店が出来たんだって♪

圭

へー……

結衣子

……

結衣子

えっと、手紙はどこだっけなー

圭

わー、わー、勘弁して!















そんなこんなで、1人ではない2人きりの夏が……すぐそこまで来ていた。









ーENDー