――ここは西進ハイスクール蘇佐駅西口校

大学受験ならおまかせの大手学習塾だ。
志望校合格のために多くの現役生や浪人生が日夜勉学に勤しんでいる。

そんな学習塾の中でも特に特徴的なのが自習室。

誰にでも集中できる場所の提供を信念に大小様々な自習室がここだけでも3つは存在する。地方の学習塾でこの数はちょっと異常だと思う。
もっとも最近は少子高齢化社会の煽りを受けて少なくなった利用者を補填するために一般にも貸出しているくらいなのだが……

我々受験生はこの自習室を特に利用する。この場所はいわば我々にとって戦場であり、聖域であり、帰るべき場所なのだと私は思う。

そんな場所でなにをするのかって? おいおい、そんなことは決まっている。

もちろん勉強だ。
ああ、もちろん勉強なのだ。
間違っても遊ぶためなんかじゃない……はず。

友也

なんで俺たちって勉強しるんだろうなぁ……

司

急になんですか?

友也

疑問に思わねぇ? 勉強してなんの意味があるんだって

司

はぁ……

友也

参考書に書かれたもん暗記したって俺の人生が豊かになるなんて到底思えん!

司

要するに勉強したくないんですね

友也

まったくもってその通りいったい俺の人生に英単語が、数学の公式が、歴史の誰かさんがなんの役に立つって言うんだよぅ!!!

司

大声出さないでくださいよ。一応自習室なんですから。それに隣の部屋はまだ授業中です。

友也

聞かせてやればいいんだよ。一受験生の切なる叫びをさ! 大体、自習室って言ったってここ使ってるのって俺らといつもの奴らだけだろ? 今日は誰も来てないみたいだし……

司

そうですけど……

友也

だったら問題ナッシング! 俺は自由を叫ぶ! 学歴社会~♪ こんな日本に誰がした~♪

司

間違いなく勉強してきた人たちですね

友也

かぁ~! 冷めてるねぇ! 新田君!

司

あの、僕勉強したいんですけど……

友也

新田君はなんで勉強してるのぅ?

司

なんですかいきなり……
僕は大学でやりたいことがあるんです。だから勉強してるんですよ

友也

へぇ~、ご立派でござんすねぇ~

司

西野さんこそなんで勉強してるんですか? ここに通っているということは大学に行きたいんですよね?

友也

それはもちろん桃色のキャンパスライフのためよ!
俺は都会の女子大生と遊んでみたいの!

司

そ、そうなんですか……

友也

なんだよ、新田。お前だって少しも考えたことないわけじゃないだろ? 都会の麗しい年上のお姉様ときゃっきゃうふふなキャンパスライフ! 最高じゃねーか!

司

じゃねーか? って言われても僕にはよく……

友也

固いねぇ。そんなんで人生楽しいか?

司

ほっといてください。そんな不純な動機だからこの前の模試の成績が最悪だったって大騒ぎする羽目になるんですよ。

友也

不純とはなんだ、不純とは! じゃあ聞くけどよ、お前は一度たりとも妄想したことはないのか? 女の子と楽しく送る桃色キャンパスライフの日々を!

司

西野さん!流石に声が大きい……!!

友也

都会の色に染まったせくちぃなお姉さま方をとっかえひっかえしてあんなことやこんなことを……グへへ……

咲

仮にも塾の自習室で、しかも隣で受験生が必死に授業を受けているのに大声で妄想垂れ流しとは随分といいご身分ね

司

渡辺さん

友也

げ、一浪女!

咲

あなたは相変わらず失礼な男ね。人間としてどうかと思うわ。あと新田君、私のことは下の名前で呼びなさいと言っているでしょう? 渡辺さん、なんておばさんくさいじゃない

司

いや、そんなことないと思うんですけど……

咲

新田君

司

わかりましたよ、咲さん

咲

よろしい。ところでそこの失礼極まりないアホ男

友也

アホ男とはなんだ。アホ男とは

咲

あんたみたいな人間のことを言うのよ。普通禁句よ。浪人生に対して

友也

でもよ、気遣って腫物みたいに扱う奴らの方が失礼だろ?

咲

一理あるけどちょっとは気を使いなさいって言ってるの……まぁいいわ。田中先生から伝言。西野君だけ課題の提出が遅れてるから早く持って来いって

友也

やべ、提出期限今日だっけ? 新田、俺ちょっと行ってくるわ

司

いってらっしゃい

咲

まったく、相変わらず適当なんだから。あいつめんどくさいでしょ?なにか変なことされなかった?

司

……桃色のキャンパスライフできゃっきゃうふふだそうです

咲

なにそれ?

司

さぁ? 僕にはよく……

咲

ふーん。まぁいいわ……そういえば新田君は4月からだったよね? もうこの塾には慣れた?

司

ええ。最初は色々戸惑いましたけど、なんとか

咲

分からないことがあったら遠慮なく聞きなさいよ? これでも一応先輩なんだから

司

ありがとうございます

咲

さて、私もちょっと勉強していこうかな

司

そういえば咲さんってどこ大志望なんでしたっけ?

咲

相応大の文学部よ

司

あ、じゃあ僕と同じです。僕は法学部

咲

なに? 新田君も相応? こりゃ油断してられないわ。優秀な芽は早めにつぶさないとね

司

冗談でも怖いですよ……

咲

冗談なんかじゃないわ。マジよ!

司

マジっすか!?

咲

マジっす!

司

学部違うからライバルになりようがないと思うんですけど……

咲

こういうのは気持ちの問題なのよ

司

ま、まぁお互い頑張りましょうってことで……

咲

どっちが落ちても恨みっこなしだからね

司

不吉なこと言わないでくださいよ

咲

あら、自信がないのかしらん?

司

ありませんよ

咲

そう……からかい甲斐が無いわね。つまんないの

司

でもやりたいことがあるんです。だから自信がなくても諦めません

咲

そう。ん、頑張れ少年! あんたの未来はきっと明るい!!

司

痛いです、痛いです! ほ、ほらそろそろ勉強しましょうよ!

咲

勉強なんていつでもできる! だけど君をいじめるのは今しかできない!

司

無茶苦茶ですよ!!

咲

がっはっはっはっは!!

真希

やっほー! 咲ちゃんに新田君! 今日も元気ぃ?

咲

あら、真希ちゃん。すこぶる元気よ

長船

自習室で年下いじめて楽しいか? 渡辺

咲

ええ、最高に愉快だわ。あと渡辺って呼ばないで

司

そっちも授業終わったんですか?

長船

ああ、ちょっと長引いたけどな

真希

橋本先生の授業脱線ばっかりで時間通りに終わった試しがないからもうまいっちゃうよねぇ

長船

お前はもうちょっと真面目に勉強しろ。そんなんだから西野と一緒に呼び出しくらって説教されるんだ。この調子だとどこにも入れてもらえないぞ

真希

だ、大丈夫!ペーパーテストで真希ちゃんの実力は図れないのです!!

咲

かわいい……

真希

えへへ、ありがとう! 咲ちゃん!

長船

お前、馬鹿だろ?

咲

なによ! かわいいは正義なのよ!

真希

その通りなんだよ!

長船

お前ら馬鹿だろ!?

司

まぁまぁ、長船さん。まだ6月ですし、そこまで怒らなくても……

長船

いいか、新田。去年の今頃、俺も同じことを思っていた。こっから先は言わなくてもわかるよな?

司

……はい

長船

お前は気をつけろよ

司

……気をつけます

長船

俺たちだけでもちゃんと勉強しような。俺は2浪だけはしたくない

司

が、がんばります……

咲

はぁ……今日も真希ちゃんは最高にかわいいわぁ……

真希

ありがとね! だけど私は咲ちゃんの方が可愛いとおもうんだけどなぁ……

咲

そんなことないわ! 真希ちゃんの可愛さに比べたら私なんてミジンコ以下のゴミクズよ!

真希

咲ちゃんそんなこと言っちゃダメだよ!

咲

ああ! 今日も真希ちゃんは天使だわぁ……

長船

いい加減うるせぇぞ! 自習室なんだから静かにしやがれ!

咲

固いこといってんじゃないわよ。そんなんだから今年も受験勉強なんてする羽目になるのよ

長船

お前だって浪人してんだろ!

咲

私は自ら望んで浪人という道を選んだの! どこにも入れなかったあんたとは違うわ!

長船

お前……普通そういうの面と向かって言うか……!

咲

事実なんだからしょうがないでしょう?

長船

ぐぉぉぉ……!!!

真希

おっきゅん……

長船

同情するなぁぁあああ!!!

司

あ、あの!! 自習室なんで! し、静かにしないと!!

長船

うるせぇ! こいつら一回痛い目に合わせてやる!!

真希

そ、そんなことしたら先生に言いつけるよ!

長船

構うもんか! 宮永ぁ! まずはお前からだ!!

咲

させないわ! 沙織ちゃんは私が守るもの!!

今日も今日とて私たちの自習は続く。
にぎやかに、誰かと交わりながら。

司

べ、勉強できない……

正直、未来に不安はあるけれど
それでも私たちの自習は続くのだ。

今日も今日とて自習室

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