プロデューサー

ん? 唯、今日はずいぶんご機嫌だね

事務所へ帰ると、唯が何かを手に持ってうれしそうにしていた。

普段気持ちを表に出さない唯。

だけど、長くつきあっているとそれなりに表情の変化には敏感になってくるものだ。

唯

わかりますか、プロデューサー……!!

しかも今日の唯は珍しく気持ちがかなり顔にでてる。

頬が赤くてつやつやしてて、瞳がうるんだようにきらきらしてる。

これは相当いいことがあったんだろう。

まさか年末の宝くじがあたったとか? きっとそのくらいの一大事だ。 

プロデューサー

もちろんだよ。何があったの?

唯

これ、みてください!


唯が勢いよく両手で差し出してきたのは。

プロデューサー

年賀状?


唯の瞳は相変わらず星のようにきらきらしていた。

唯

はい。空子と千乃からもらったんです

プロデューサー

ああ、あの二人から。かわいい年賀状だね

唯

かわいいです

プロデューサー

で……えっと、その年賀状のお年玉番号が一等に当選したとか?

唯

?

唯

まだ当選番号は発表されてませんけど?

プロデューサー

あ、そうだよね……

プロデューサー

いや、唯がすごくうれしそうだったからさ、何かびっくりするようなことが起きたのかなと思ってさ

唯

起きました

プロデューサー

おお、やっぱりそうなんだ! 何が起きたか教えてよ!

唯

2人から、年賀状をもらいました

プロデューサー

……

唯

私、同世代から年賀状なんてほとんどもらえないので


唯はしみじみと二人の年賀状を眺めている。

プロデューサー

え? そうなの? 唯ならたくさんもらいそうなのに

唯

私だってほしいし出したいです。でもどうやら私って近づきがたい印象みたいで

唯

だからこっちから年賀状を出しても、迷惑がられちゃうかもって思うんです

プロデューサー

いや、そんなことないと思うけど……

唯

年賀状って、期待していてもらえないと傷つくじゃないですか

唯

だから毎年、”私は年賀状返さない派”って先に言っておくんです。傷つきたくないので

プロデューサー

まあ、確かにそういう人いるけど・・・・・・

唯

それを続けてはや十年


話している唯の目からだんだん潤いが消え、肩がずーんと沈んでいく。

プロデューサー

だから年賀状がこないわけか……

唯

はい

唯

でもたまに”年賀状返さないなんて嘘でしょ? 唯ちゃんそんなに冷たくないもん”と言ってくれる子もいて

プロデューサー

そうだよね! じゃあその子からは年賀状が来るんだ?

唯

なので最近は”宗教上の理由で年賀状は出せない”という理由を発明しました

プロデューサー

……

唯

だから私、感動したんです。今年も同じように言っていたのに、空子と千乃は年賀状をくれました

唯

返してくれなくてもいいよって。自分が出したいから出すんだよって


唯の表情がまた明るくなった。

プロデューサー

そういうことか。唯がうれしそうにしてる理由がわかったよ

唯

これは家の神棚に飾っておきます

プロデューサー

そこまでなんだ……。いや、でもいいと思うよ……

唯は人一倍繊細な性格だ。

だから黙っていても、いつもこうしていろんなことに頭を悩ませているんだろう。

これはなんとかしてやりたい。

唯

いろいろ考えちゃうから、一人でいるのが好きなのかも。本を読んだり映画を見たり

唯

でもお話するのは嫌いじゃないんです

プロデューサー

そうなんだ! うんうん! みんなともよく話すもんね!

唯

現場で一緒になったアイドルの子がかわいいチャームとかつけてると、”それかわいいね”とか”どこで買ったの?”とか聞きたくなります

プロデューサー

なるよね! じゃあそこから会話が弾むんだ?

唯

でも”迷惑じゃないかな”って思ってやめてしまいます

プロデューサー

め、迷惑なんてことはないよ! 相手もうれしいよ!

プロデューサー

唯がそう言われたと思って想像してみてよ!

唯

そうですね……

唯

”気を遣って言ってくれてるのかも”とか、”褒められたからって喜んだら調子に乗ってるみたいでイヤだから反応に困るな”とか思います

プロデューサー

くっ…

唯、なかなか手ごわいな…。

唯

そのうちに”そうだ。褒められたのは私じゃなくてチャームだ”

唯

”私はチャームの添え物だ”

唯

とか考えだしてしまって、どこまでもへこんでいきます

プロデューサー

唯ちょっと落ち着こう! すごいネガティブになってるから!

唯

落ち着いてますよ…?

プロデューサー

確かに……

ともかく、唯はそんなことでいつも悩んでるのか……。

唯

私、アイドルらしい性格ではない、ですよね…

い、いけない! 勢いあまってアイドルである自信まで失いかけてる!

考えすぎる性格。それは確かに自分を苦しめる。

でも裏を返せば……。

プロデューサー

でも、それはさ、唯が優しいってことだよ

唯

優しい……ですか?

プロデューサー

そうだよ。それだけ相手がどう思うだろう、こう思うかなって考えられるのは思いやりが強い証拠だよ

プロデューサー

だから唯の歌は胸を打つんだ

唯

私の歌が……?

プロデューサー

うん。普段表にでない唯の優しさは、歌った時に解き放たれて、音楽に乗って多くの人たちに届くんだよ

プロデューサー

僕は好きだよ。唯。きみの歌が

唯

っ……

プロデューサー

だからアイドルに向いてないなんてことは絶対にない

唯

……

プロデューサー

僕が保証する


気づくと、いつの間にか唯の顔には赤みが差していた。

そして僕に向き直ると、両足をそろえ、頬をゆるめて見せた。

唯

じゃあ私、また頑張ってみます


そしてぺこりと頭を下げる。

唯

今年もよろしくお願いします。プロデューサー


よかった・・・・・・。僕はほっと胸をなでおろす。

プロデューサー

こちらこそ今年もよろしく。唯

唯

……ところでプロデューサー、もう1つ相談があって

プロデューサー

えっ・・・・・・な、何かな?


今度は何が飛び出すかと思って身構えると、唯は言いづらそうにもじもじとしながら言った。

唯

2人に返す年賀状の内容、一緒に考えてください