息を吐けば真っ白になるそんな時期。

今日は2月14日。

そう、バレンタインデーだ。
 
鞄の中に忍ばせた小さな箱は、すでに3時間そこに鎮座していた。

牧

……で、だからあたしは来年の序列は大丈夫だと思うの

長嶺

予想とか出てるの?

牧

まだ確定ではないけど。
おっきなテストあと一つ残ってるし

長嶺

運動系はもう出た?

牧

運動系は、児玉君、千裕君、匠君、拓也君、で、あなたの順番だった

長嶺

絢香は?

牧

女子では1位だったけど、運動だけだと6位であなたの後だったはず

長嶺

ふーん

牧

で、勉強は最後で変動するかもしれないけど、前回と同じ、児玉君、絢香ちゃん、千裕君、拓也君、黒田君

長嶺

じゃあ、去年の頭と同じような順位になるわけ?

牧

まだ、顔面と人望とか人気順とかでポイント分けてないから確実じゃないけど、去年の悠美ちゃんみたいな化け物はいない予想だよ

長嶺

ふーん

長嶺

来年はでも、不正も解禁だよね

牧

うん

長嶺

大変だね

牧

うん

ほんとは、ちょっと会って、ちょっと渡そうと思ってた。
 
だから、どこにも入らずに寒い公園なんてチョイスをして、さっさと渡して、さっさと帰ろうって。



なのに!
 


一応、溶けたら嫌だなって思って持ってきた保冷材もきっと溶けている。
 
呼び出されて早々に、突然始まった来年の序列の話を聞いてくれて、ついでに寒いね、なんてかっこいいこと言ってコンビニまで走って肉まんとジャスミンティーを買ってきてくれた彼に申し訳ないなって、もう数えきれないくらい思ってる。
 


誰か私に素直っていう言葉を行動に移す魔法をかけてぇ!

長嶺

どこかはいる?

牧

それはほんとに嫌だ

長嶺

でも、寒いでしょ、さっきから震えてるよ

牧

え?これ?
武者震いだよ

長嶺

誰と戦うの!?

そういって、自分が首に巻いていたマフラーを私に巻きつけてきた。

長嶺

さみー

牧

いいよ、風邪ひいちゃうよ

慌ててマフラーを返そうとすると首で結ばれる。
 
ぶっちゃけちょっと、首が苦しい。

長嶺

牧子ちゃんは一体なんで今日呼びつけたの?

牧

ひ、暇だったから

長嶺

そっかぁ

牧

そうだよ

長嶺

デートだねぇ

牧

ち、違うし?
ちょっと暇だったから、話をしようと思っただけだし

長嶺

それはデートと違うの?

牧

……い、井戸端会議

そっかそっか、井戸端会議ね、なんて言ってまたくだらない話を再開してくれた和博君に、ちょっとほんとに申し訳なくなる。
 
井戸端会議って何!?
 
なんで日曜日に、そんなものに呼び出されなきゃいけないわけ!?
 
あー、もう、絢香ちゃんのこと恋愛下手だなんて思ってたけど、あたしもたいがい下手だよね!?

牧

か、かかかかか和博君

長嶺

え?それは何!?寒いの!?
震えてるの!?顔真っ赤!

牧

ば、馬鹿、違うわよ、馬鹿

長嶺

え、何、ごめんなさい。
ちょっとふざけた

牧

そ、あ、え、う

長嶺

ごめん、俺結構牧子ちゃんのこと好きだけど、全然何言ってるか分かんない

牧

お、お父さんにね、作ったの

長嶺

何を!?

牧

あぅ……。
チョコ

長嶺

俺今聞き間違えたかな?

牧

ちょ、こ

長嶺

うんうん。
それでそれで

牧

と、溶けてるかも

長嶺

うん

牧

おいしくないかも

長嶺

食べてみないと分かんない

牧

呪詛がかかってるかも

長嶺

えー。
俺牧子ちゃん大好きだから今更呪詛かけなくても

牧

死ぬやつ

長嶺

俺たち、つきあってますよね

牧

つ、付き合って!

長嶺

るよね、さすがに俺泣いちゃうよ

牧

……それは認める

長嶺

よかった

牧

……

長嶺

おっと、ここまで来て黙りこんじゃった?

牧

食べたいなら、あげないこともないけど

長嶺

どうしてこの子は、俺の前ではこんなにツンツンしてるのかなぁ

牧

帰る

長嶺

ごめん俺が悪かった。
チョコレート頂戴!

牧

……あげる

押し付けるようにしてチョコを渡して、走って帰った。
 
家に帰ったら、和博くんのマフラーをしたままで、よく考えたら、公園に放置してきてることに気が付いて。
 
なんで、あたしはこんなに素直じゃないのかなって思って、よくあたしと付き合おうって思ったよなってそんなことを思って。

牧

はぁ、好きなのになぁ

ぽつりとそんな言葉が口から零れ落ちた。

次の日、和博君は元気に私の教室にマフラーを取りに来た。

彼の一週間テンションはものすごく高かった。