屋上でしばらく頭を冷やし、
部署へ戻った洵へ先輩女子から声がかけられた

あ、小鳥遊くん。悪いけど、第2応接室にお茶をひとつ運んでくれる? 私これから会議なの

洵

はい、分かりました

第2応接室は主に管理職クラスの賓客が仕事以外の
用件で来社した際、通される部屋だ。

お茶がひとつって事は、お客様は1人って事か。

至極当たり前の事をぼんやり考えながら給湯室で
お茶を淹れ、第2応接室へ運んで行く。

―― トン トン

『失礼致します』

『どうぞー』

何処かで聞き覚えのあるその声に”おやっ?”
と、小首を傾げながらドアを開けた。

室内の応接ソファーに座っているのは笙野だった。

洵

しん ―― いえ、笙野常務、お久しぶりです

笙野 伸也

うん、4日ぶり、かな

洵はテーブルへお茶を置いて、さっさと
出て行こうとしたが、笙野に引き止められた

笙野 伸也

ツレないなぁ、4日ぶりなんだよ。もう少しゆっくりして行けば?

洵

勤務中ですので

笙野 伸也

じゃ、勤務明けならいいんだな

洵

んな屁理屈捏ねて困らせないで下さい

すぐ外の廊下で男性の声がする。
その声は毎朝のテレビ朝礼で聞いているので、
嫌でも覚えた。

社長・神宮寺のモノだ。

笙野 伸也

参ったぁ、もう、来ちゃったか

洵

って、社長へ会いにいらしたんですか?

笙野 伸也

うん、先日カミさんのお見舞いに結構な物貰っちゃったからね、その御礼かたがた、古巣に陣中見舞い?

笙野は神宮寺がすぐ外にいるにもかかわらず、
洵の手をグイっと引き、自分の腕の中へ
すっぽり納めてしまった。

洵

ちょっ、笙野常務 ――っ! 止めて下さい

笙野 伸也

そのよそよそしく呼び方止めて、僕に気持ちのいっぱいこもったキスをくれたらね

洵

え ―― っ(絶句)

笙野 伸也

ほ~ら、どうするー? 神宮寺はすぐそこにいるんだよー。こんなとこ見られたらすっごく恥ずかしいねぇ

恥ずかしい、どころの騒ぎじゃない。

バイト生からの逆セクハラ ―― 
厳重注意処分、くらいで済めばいいが……。

笙野 伸也

……まこと

そんな笙野の甘い 甘い囁きに引き寄せられるよう
洵は笙野へ唇を重ねた。

***  ***  ***