夕暮れの校舎裏。

赤く染まる空の下

丈と晃――二人きりの静かな対峙

お前が番長?オレは認めねぇぞ!

これは俺が選んだわけじねぇ、先輩の意思だ

そんなもん関係ねぇ朝日高校の次の番はオレだ!

ハッ、じゃぁここで決着つけるかコラ!

上等だコラ!

はぁ・・はぁ・・
殴れよ、晃ッ!遠慮すんなよ、この野郎!

はぁ・・はぁ・・テメェこそ、いっつも強がってんじゃねぇ!お前に番長の座を渡すかバカ!

ゼエゼエと荒い息。

制服は泥まみれ、髪は乱れ
二人は地面に転がっていた

……ったく、てめぇと殴り合うと、胸ん中のモヤモヤがぶっ飛ぶんだよな

フッ……お互い、ガキの頃から変わんねぇな。“ダチ”ってのはこうじゃなきゃな

無言で拳をグッと突き合わせる
晃と丈

夕日を背に、2人の不器用な笑みがこぼれた。

今度ラーメン奢れよ、番長さんよ

おう、塩か味噌か選ばせてやるよ、コノヤロー

晃との殴り合いを思い出していた。

夕暮れ、校舎裏。
拳を交えたあいつの顔が
脳裏をよぎる。




杏奈? おーい

――現実に引き戻された。

お、おぅ……

結衣がにこっと笑って
俺の手を取った。

(て、手をつないでる……!?)

柔らかくて、あったかい。女の子の手って、こんなにちがうのか。

(女子のダチってこういうもんかよ……ちくしょう……
悪くねぇじゃねぇか……!)

コブシでしか語ってこなかった
俺に、こんな優しい接触があるなんて。

(やべぇ……いかん、気持ちが
ふわふわしてやがる。
冷静になれ……俺には
今聞きたいことがあるはずだ)


結衣が歩きながら、ぽつりと問いかけてきた。

ねぇ杏奈。さっき、なんで葵に話しかけたの?

ああ……朝の電車で会ったんだ。ちょっと、気になることがあってな

……そう

でも……もうやめた方がいいよ。あぶないから

あぶない? どういう意味だよ

……次に“ターゲット”になるのが、私たちになっちゃうかもしれない。そしたら――

行こっ

結衣はそれ以上、何も言わずに
教室へ向かっていった。

ターゲット……そういうことか

あいつらが俺を注目してた
理由がわかった。

葵に話しかけたからじゃない。
――“誰が標的にされるか”
それを気にしてたんだ。

つまり、葵を心配したんじゃねぇ。

自分らが巻き込まれねぇかを
見てたんだ。

ふと、葵の方を見た。

窓際の席で、小さく俯いたまま。

授業中も、まるでそこに
いねぇみてぇに……塞ぎ込んでいる。

・・・

あいつ……何を抱えてんだ?

昼休みー

ふぁ~……授業なんざチンプンカンプンだぜ。
オレはいつも屋上で昼寝か、教室で麻雀大会だからな

杏奈、食堂行こ?

おう!腹ペコだぜ、ちくしょう!

俺は躊躇なく葵の席まで
歩いていった。

おい、メシ行くぞ

ぽん、と肩をたたく。

その瞬間、教室の空気が変わる。

シン……と静まり返り
誰かがクスクスと笑う声
ひそひそ話す声。

だけど、俺は気にしねぇ

葵、行くぞ

そのまま腕をとって立たせた。

!?

あ、杏奈……

結衣の驚いた声が背中越しに届く。

3人でそのまま食堂へ

葵はパン

俺はカレー大盛りと
そば大盛り。

結衣はスパゲッティ。

ねぇ、そんなに食べられるの?

もちろんよ。食って、暴れて、クソして寝る――それがオレの一日だぜ

……なんか下品

女にはわかんねぇ感覚よ

なにそれ?杏奈も女子でしょ!

ああ、、そうだったな

ヘンなの!

一方の葵は、パンを袋ごと
持ったまま、じっとしている。

葵、食えよ。食わなきゃ元気も出ねぇぞ

コク・・・

小さくうなずき、ようやく
パンの袋を開けてかじる。

なぁ、結衣。飯のあと、屋上行こうぜ

う、うん







──3人で屋上へ。

空はよく晴れていて
風が気持ちいい。

わぁ、天気いいね。気持ちい~

な、最高だろ?お前らいっつも下向いてカメラ見てばっかだけどよ。たまには空見ろ、空!

結衣は笑ってまたカメラを構えた

パシャッとシャッター音

葵も、静かに空を見上げている

その時――

……あっ

どうした?

結衣の顔が急にこわばった。

手にしていたカメラの
モニターを見て青ざめている。

なんだよ、UFOでも映ったか?

ち、違う……そうじゃなくて……

その手が小さく震えていた。

震える手で結衣がカメラを
差し出してきた。

見て……

これ、なんだ?

……裏掲示板だよ

裏?

“裏”って、まさかアダルト系の

――いや、さすがにそれは……。

お、おい結衣……い、いくらオレでもそういうのはちょっと

バカ、杏奈のことが書いてあるの!

……は?

『あいつ正義感ぶってて草』

『オレとか言ってキャラ変しすぎてキモ』

『ガチグロ』

『早く消えろ』

『それなw』

読めば読むほど胸がざわつく

言葉の意味はすべては
わからなくても
そこに込められた悪意だけは
しっかり伝わってくる

オレに……喧嘩売ってんのか、こいつら……

っふ……

な、なんで笑ってるの?

結衣、これ書いたヤツ呼び出せ。きっちり、勝負してやらぁ

は!? ど、どういうこと!? 書いた人なんてわかるわけないよ

果たし状じゃねぇのか? オレと喧嘩したくて書いたんじゃねーのか?

そんなワケないでしょ! 匿名アカウントなんだよ!? 誰が書いたかなんて特定できないってば!

……じゃあ、クラス全員ぶっ飛ばす

ちょ、ちょっと待ってぇぇ!!

その時――

ご、ごめんなさい……私のせいで……

葵が、おれの目の前に立ちはだかる

その目には涙

……お前のせいじゃねーって

その言葉を最後に
葵はくるりと背を向けて
走り出してしまった。

葵!

・・・

第5話 拳で語る友情だコラ!

facebook twitter