花音

ひぃくん、ひぃくん! 

あれ取ってー!

 私はひぃくんの腕をグイグイと引っ張ると、射的の出店を指差した。

 コロンと丸い小さなひよこのクッション。
 凄く可愛くて、一目惚れしてしまった。

 さっきまでひぃくんに怒ったりドキドキしたりしていたくせに、会場についた途端にはしゃぎまくる私。

 ……自分でも、どうかと思う。

響

どれが欲しいの?

花音

あの、丸いひよこっ!

響

うん、わかったー

 そう言ってニッコリと微笑むひぃくん。

 銃を構えるその横顔は、なんだか凄く真剣でドキッとする。

 銃声が聞こえた次の瞬間、ひぃくんは私を見てフニャッと笑った。

響

取れたよー?

花音

……えっ?!

 ひぃくんに見惚れていた私は、その声に慌てて景品棚の方を見る。
 棚の下にコロンと転がるひよこ。

 ひぃくんは、一発で取ってしまったのだ。

ーーはい、お嬢ちゃん


 ニッコリと微笑むおじさんからひよこを受け取ると、ひぃくんを見上げて口を開く。

花音

ありがとう、ひぃくん!


 満面の笑みでお礼を告げる私を見たひぃくんは、ニッコリと微笑むと

響

可愛いー

と言って優しく頭を撫でてくれる。

ーー花音

 突然呼ばれた声に振り返ると、そこには彩奈とお兄ちゃんの姿が。
 手には、焼きそばとりんご飴が握られている。

 実は、私のパシリでりんご飴を買いに行っていたお兄ちゃん。

花音

……りんご飴っ!


 瞳を輝かせた私は、そのままお兄ちゃんに向かって走り出した。

花音

わーい! りんご飴っ!

 もはや、りんご飴しか目に入っていない私。

 目の前の石に気付かず、そのまま石につまづいてしまった。

花音

……うわっ! 倒れるっ!

 そう思った瞬間、ガシッと肩を掴まれた。

翔

急に走るなよ……。危ないだろ

 私を見て、呆れた顔をするお兄ちゃん。

 どうやら、お兄ちゃんに助けられたらしい。

彩奈

……まるで子供ね


 お兄ちゃんの横で、彩奈が呆れた様な顔をする。

翔

……おい、聞いてるのか? 花音

花音

えっ……?!

 実は、肩に置かれたお兄ちゃんの手をジッと見ていた私。

 だってその手には、りんご飴が握られていたから……。

翔

お前今、りんご飴見てただろ……


 ギロリと私を睨むお兄ちゃん。

花音

みっ、見てない!
 
見てないよー。
お兄ちゃんてば、嫌だなぁ!


 引きつる顔でアハハと笑って誤魔化すと、そんな私を見たお兄ちゃんは大きく溜息を吐いた。

翔

……子供かよ

彩奈

……子供ね


 彩奈と二人で呆れた顔をするお兄ちゃん。

花音

何も、返す言葉がありません……

響

ーー花音っ! 

急に走っちゃダメだよー! 
どこも怪我してない?


 そう言いながら、焦った顔をして駆け寄るひぃくん。

花音

あ……。

ひぃくん、置いてきちゃってた

 ひよこを取ってもらっておいて、そのままひぃくんを置いてきた私。

花音

なんて最低なんだろう……

花音

ひぃくん……ごめんなさい


 申し訳なく思い謝る。

 シュンとして俯いていると、ひぃくんは私の頭を優しく撫でてくれた。

響

花音が無事なら、いいよ。

りんご飴、食べたかったんだもんね?

花音

そうなの……。
食べたかったの、りんご飴。

でも、だからって最低だよ……私

 優しく微笑むひぃくんに、チクりと胸が痛む。

花音

私のりんご飴……、半分コする?

 ひぃくんへの謝罪に、そんな事しか思い浮かばない私。

 そんな私の言葉に、目を見開くと固まってしまったひぃくん。

花音

やっぱり……りんご飴なんて、いらないよね

花音

ひぃくーー

響

ホントに?! いいの?!

 やっぱり辞めようと口を開いた瞬間、私の肩を掴んだひぃくんが、瞳をキラキラと輝かせながらそう言った。

花音

えっ……? あ、うん

花音

ひぃくん、そんなにりんご飴好きだったっけ……?

 異常に喜ぶひぃくんを見て、少し呆気に取られる。

響

じゃあ、全部半分コにしようねっ?

花音

ぜ、全部って……?


 私の目の前でニコニコと微笑むひぃくん。

花音

全部って……。

もしかして、食べ物全部?

響

全部だよー? 
食べる物全部。

その方が、色々食べられるよ?


 小首を傾げたひぃくんは

響

ね?

と言って私を見てくる。

花音

んー。確かにそうかも……。

色々食べたい物があるし、ちょうどいいかもっ!

 そう思った私は、途端に目を輝かせる。

花音

うんっ! そうだね!

ひぃくん天才っ!

 ひぃくんを見上げて笑顔でそう答えると、ひぃくんはフニャッと笑って私を抱きしめた。

翔

……おい。

何でそこで、抱きつくんだよ


 それまで黙って傍観していたお兄ちゃんは、そう言うと私からひぃくんを引き離した。

花音

ビックリした……っ

 不覚にも、ドキッとしてしまった。
 相手はひぃくんなのに……。

 ドキドキと高鳴る胸を抑えると、目の前のお兄ちゃん達をチラリと見る。

 すると、お兄ちゃんに腕を掴まれたままのひぃくんが、ニコニコと嬉しそうな顔のまま口を開いた。

響

だって、花音が俺の事好きって言うから……。

可愛くてー

翔

……いや、言ってないだろ。

お前の耳は、どーなってんだよ


 ニコニコと微笑むひぃくんを見て、お兄ちゃんは呆れた顔をして溜息を吐いた。

花音

お兄ちゃん……。

ひぃくんがおかしいのは、耳じゃなくて頭だよ……

 私はひっそりとそんな事を思った。

 勉強はできるくせに、どこか頭のネジが一つも二つも緩んでいるひぃくん。
 これは一生、治らないんだと思う。

 落ち着きを取り戻した胸から手を離すと、私はお兄ちゃんに向けて口を開いた。

花音

……お兄ちゃん。りんご飴食べたい

 私の言葉に何故か溜息を吐いたお兄ちゃんは、

翔

わかったよ

と言って私にりんご飴を渡してくれる。


 座れる場所を探して歩く間、ずっとりんご飴を見つめる。
 食べるととっても美味しいりんご飴。
 その見た目は、キラキラと輝いてとても綺麗だった。

 クルクルと回しながら眺めていると、隣を歩くひぃくんが口を開いた。

響

花音、良かったねー

花音

うんっ


 クルクルと回るりんご飴を眺めながら、にっこりと微笑んでそう答える。

 そんな私を見てクスリと笑い声を漏らしたひぃくんは、私の左手を握ると

響

転ばないでね

と言って握った手にキュッと力を込める。


 暫くそのまま歩いていると、すぐ目の前を歩いていた彩奈が口を開いた。

彩奈

……あ。あそこ、空いてるよ


 彩奈の指差す方へと視線を移すと、ちょうど四人分の椅子とテーブルが空いている。

 私達はその席へと移動すると、買ってきた食べ物をテーブルに広げた。
 どうやら、イカの丸焼きなんかも買っていたらしい。

 自分の右手に握られたりんご飴を見つめ、そこで私はようやく気付いた。

花音

あれ……? 

りんご飴って、どうやって半分にするの?

 そう思って固まっていると、隣に座ったひぃくんが私の手からりんご飴を取り上げた。

響

はい、あーん


 そう言って私にりんご飴を差し出すひぃくん。

花音

わざわざ、取り上げる必要ってあったの……?

 そう思いながらも、食べたくて仕方がなかった私は、差し出されたりんご飴にカプッと食いついた。

花音

美味ひぃー


 思わず顔が蕩《とろ》ける。

響

良かったねー

 ニッコリ微笑むひぃくんは、そう言うと私の食べかけのりんご飴にカプッと食いついた。

 そして再び、私の目の前に差し出されるりんご飴。

花音

あ、あれ……? 

これって、どうなの?

響

食べないの?


 不思議そうに私を見つめるひぃくん。

 なんだか、意識しているのは私だけのようだ。

花音

た、食べるっ!


 そう言って勢いよくカブリつくと、クスクスと笑うひぃくん。

花音

何だか悔しい……。

もう、気にしないもんっ!

 何故か、ひぃくんと交互に食べる羽目になったりんご飴。

 私から言い出した事なので何も言えず、そのまま完食するまで私は黙って食べ続けるしかなかったーー。

翔

花音。お前、お菓子ばっかりだな……。

ご飯もちゃんと食べろよ?

 私の目の前で呆れた顔をするお兄ちゃん。

 綿菓子にあんず飴にかき氷と、さっきからご飯類を一切口にしていない私。
 勿論、全てひぃくんと半分コ。

 私の隣では、ひぃくんがニコニコと微笑んでいる。

花音

だって……食べたいんだもん。

しょうがないじゃん

 口を尖らせてお兄ちゃんを見る。

響

花音。あーん


 お兄ちゃんの言葉を無視したひぃくんが、私に向けて笑顔でそう言う。

 パッと笑顔を咲かせた私は、口を開けて食いついた。
 ーーと思ったら、突然ヒョイっと私の目の前から消えてしまったバナナ。

 その行方を追って辿ると、お兄ちゃんがひぃくんの腕を掴んでいる。

翔

それは、やめろ……

 何だか、少し顔を引きつらせているお兄ちゃん。

花音

チョコバナナ、食べたかったのに……。

食べちゃダメなの?

花音

ご飯も食べるから……。

お願い、お兄ちゃん。ちょうだい

翔

やめろ……。

そんな言い方、するな


 引きつった顔で私を見るお兄ちゃん。

花音

ご飯もちゃんと、食べるのに……。

お兄ちゃんの意地悪

響

欲しいよね?

花音

うん。欲しい……


 ニコニコと微笑みながら私を見るひぃくん。

翔

っお前……わざとか?

響

えー何の事? 

……あぁ!


 お兄ちゃんの言葉に、何か閃いた顔をするひぃくん。

花音

一体、何だって言うのよ

翔

これは、自分で食べろ


 そう言ってバナナを渡してくれるお兄ちゃん。

花音

え? 食べていいの? 

だったら、初めからちょうだいよ……

 そう思いながら、目の前にあるバナナに食いつく。

花音

美味しぃーっ!

 不貞腐れていた顔が、一気に笑顔になる。

響

美味しー?


 横で私を見ていたひぃくんが、ニコニコと微笑みながらそう聞いてくる。

花音

うんっ! 美味しい!

響

花音は、エッチだねー


 そう言って私の頬をツンッと突《つつ》いたひぃくん。

花音

……えっ?! 何で?!

翔

おい……響


 お兄ちゃんを見ると、鬼の形相でひぃくんを睨んでいる。

 そして、私の手からバナナを取り上げてしまったお兄ちゃん。

翔

もう、これは食べるな。これにしろ


 そう言って私の目の前に広島焼きを置く。

花音

私って……エッチなの? 

何で……?

 そんなことを考えながら呆然とする私は、目の前に置かれた広島焼きを、ただ、ジッと見つめていたーー。

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