夕暮れ時の猫鳴町には、朱色の空が町並みを染め、どこか情緒を感じさせる風が吹いておりました。

その中に佇む料亭
「猫花楼(ねこはなろう)」は、一際目を引く存在でございます。

黒地に金箔の文字が輝く看板、
そして足元を照らす石灯籠の明かりが、店の格調高さを物語っておりました。

敷居をまたげば、畳の香りに包まれ、奥からは微かに琴の音色が響きます。旬の料理の香りが漂う中、女将のお春が艶やかな身のこなしで客を迎える様子は、まさにこの店の顔とも言えるものでございました。

店先では女将のお春が客をもてなしておりました。

お春

どうぞ、中へお入りなさいませ

お春の声は、風鈴の音のように
軽やかで、店先に立つ一匹の
雄猫を誘い入れます。
その姿を、影のようにこっそりと
伺う者あり。

その者とは、ほかでもない鷹丸でございました。
客を中へ送り出し、一息ついた
お春が店先に一人残るやいなや、
鷹丸はすっと気配もなく女将に近づきました。

鷹丸

よう。景気がいいねぇ

お春

わっ!もう、びっくりさせるんじゃないよ

鷹丸

悪い悪い。けどさ、女将。今の旦那、この辺りで見た覚えのない顔だったけど、どこの誰なんだ?

お春

さぁねぇ、どこから来たのかなんて知らないよ

鷹丸

へぇ、一見さんお断りの店なのによく入れたな

お春

待ち合わせだってさ

鷹丸

待ち合わせって誰と?

お春

鷹丸、あんたに教える義理はないよ。余計な詮索をするんじゃない

鷹丸

昼間も見かけたが、かなり金回りのいいやつだな

お春

あんたみたいな貧乏猫がうろついてちゃ、まともなお客さんも寄りつかなくなるんだよ

鷹丸

そりゃないぜ、女将さん。俺はお春さんのこと、結構気に入ってんだぜ?

お春は一瞬むっとしたように
鷹丸を睨みましたが、
その背中にそっと一枚の葉っぱを
くっつけられていたことには
気づきません。

お春

バカ言ってんじゃないよ

短く言い捨てると、
お春はさっさと店の中へ消えて
いきました。
残された鷹丸はその背中を
見送りながら、楽しそうに
口笛を吹きます。

鷹丸

さて、少し調べてみるとするかね

夕暮れ時、猫鳴町の料亭
「猫花楼」は朱に染まる空を背景に、
静かな気品を漂わせておりました。

その庭園には松の枝が風に揺れ、

小川のせせらぎが耳に心地よく
響いております。

そんな庭に、音もなく
忍び込む影一つ――
鷹丸でございました。




一方、店内では女将のお春が、
酒を手に一室へ向かい、
襖を静かに開けます。

お春

失礼いたします

品の良い声が部屋に響く。

その先には、
福米屋の宗次と、もう一匹の
雄猫、武三が座を占めておりました。

お春

ようこそお越しくださいました。女将のお春でございます

穏やかな笑みを浮かべつつ
挨拶をするお春。

その瞬間、どこからともなく
一枚の葉っぱがふわりと
舞い落ち、風に乗りて障子に
そっと張り付いたのでございます。

しかし、お春はそれに気づくこともなく、

お春

では、ごゆっくりお過ごしくださいませ

礼を尽くし、部屋を後に
いたしました。

さて、庭園に潜む鷹丸は、耳を
ピクリと動かし、目を細めて
障子の向こうに意識を集中させます。

鷹丸

さて、どんな話が聞けることやら

鷹丸の耳は普通の猫よりも
鋭敏で、さらに彼が仕掛けた
葉っぱは、部屋の会話の
振動を拾い、遠く離れていても
その声を届ける仕掛けが
施されていたのです。


障子の向こうからは、宗次の
低く落ち着いた声が聞こえて参りました。

福米屋宗次

武三、久しぶりだな。あの火事以来、姿を消したと聞いていたが、こうしてまた会えるとは

武三

その節は、大変お世話になりました

福米屋宗次

で、話というのは何だ?

武三

実は――買い取っていただきたい物がございまして

福米屋宗次

ほう、それは何だ?

武三

うちの旦那様が大切にしていた絵画でございます

これを聞いた宗次は、
手元の杯を止め、驚いたように
目を見開きました。

福米屋宗次

絵画…だと?

武三

はい。その価値は、福米屋様ならご存じのはず

福米屋宗次

あれは、火事で焼けて失われたと聞いていたが…

武三

いえ、実は奇跡的に残っておりました

福米屋宗次

本当か?「翆緑(すいりょく)の猫娘」があったというのか?

武三

今は別の場所にございますが、いずれお目にかけられるかと存じます

宗次はその言葉を聞いて、
深々と杯を干し、満足げに
微笑みました。

福米屋宗次

あの絵画が、まだ生きていたとはな…

鷹丸

.........

この一部始終を聞いていた
鷹丸は、庭園の闇に身を
溶かしつつ、何か思案するように静かにその場を後にしたのでございました。

こんにちは。しおまるイカです。
いつも読んでくれてありがとうございます。今回の私のお気に入り猫ちゃん紹介します。

3位 
三味線を弾く猫
話には出てきませんが
第1話で一瞬登場しました。

この姿がなんとも愛くるしいww
建物より大きいですねw

第2位
魚屋のタク(2話に登場)
舟で日向ぼっこをしている姿が
かわいい~癒されます

第1位
福米屋の宗次
なんとも分かりやすい悪役ですが
また憎めない顔なんです。これがw

それでは
引き続きよろしくお願いいたします。